ストレスが作る・・口の中の病気 

これまで、口のなかの病気は物理的な治療に重点が置かれてきた。しかし、最近、精神的なストレスも関係していることが分かってきた。口の中の健康を保つためには、よくかんで食べ、きちんと歯をみがくことに加えて、精神的なストレスを残さない生活を心がける必要がありそうだ。
日本歯科大学付属病院の鴨井久一教授のところに、「夜、ガリガリとひどい歯ぎしりをする」と高校生の男子が母親に連れられてきた。
歯ぎしりは、歯並びが悪かったりして、かみ合わせのバランスが崩れ、ある一部に力が加わり、カチカチ、ギリギリという音がする。

鴨井教授は、母親の様子を過保護気味に感じ、診療の合間に高校生にいろいろな話を聞いてみた。
その結果、いつまでも子供扱いされることにかなりの不満を抱いていた。
治療法として、よけいな力が歯に加わらないように、軟らかい合成樹脂でできたナイトガードを夜間、歯にかぶせるようにする一方で、母親にも「そろそろ子供の自立を促し、大人として扱ってはどうか」とアドバイスした。三か月ほどで、歯ぎしりはおさまった。

「最近は、歯ぎしりもかみ合わせの問題だけではなく、寝ている間に精神的なストレスが現れているのではないかと考えられています」と、鴨井教授。
歯ぎしりだけではなく口が開かないとか口を開けると痛いという顎(がく)関節症や歯周病も、こうしたストレスと関係があるという。

三十五歳のサラリーマンが「口臭がひどい」と来院した。唾液(だえき)が出ず、いつも口の中が渇いている状態を訴えた。ほかに病気がないことを確かめたうえでカウンセリングした結果、三か月前から、東京で単身赴任を始めたことがかなりの負担になっていることが分かった。
鴫井教授は、この男性に食後のうがいと歯みがきで口の中を清潔にするようアドバイスしながら三、四か月かけてじっくりとカウンセリングを行ったところ、唾液が出るようになり、血色もよくなって、口臭をあまり気にかけなくなった。

さらに、最近ではどこも悪くはないのに、舌がしびれるとか痛いと訴え物をかむことを恐れ、おいしくものが食べられない舌痛症の患者も目につくという。
鴨井教授は、こうした口の中のトラブルについてきちんとした自己管理をするようアドバイスする。その基本になるのはしっかりした歯みがき。毎日歯をみがいても、きちんと歯と歯ぐきの間の汚れを取ることは意外にむずかしい。また、軟らかいものでも、よくかむ習慣をつけること。その上でストレスをためない生活を心がけることも人切だという。
                                              
 読売新聞’92・5・28