口臭の正体はイオウ化合物 

口からニオイ物質が出ているかどうかを、科学的に示して患者に対応している角田正健・東京歯科大助教授(歯周治療学)によると、口臭の原因物質は「硫化水素」「メチルメルカプタン」「ジメチルサルファイト」の3種類である。いずれも揮発性のイオウ化合物。硫化水素は、たまごが腐った時に発する悪臭物質としてよく知られている。

たんぱく質が分解するとアミノ酸になるが、イオウ原子を分子内に持つ含硫アミノ酸がさらに分解され、これらの揮発性物質ができる。肉や魚介類が腐敗した時に発生する主たるニオイ物質でもある。
「口臭というのは第三者が不快に感じる場合を指す。多少とも臭気のない人はあり得ないし、口からはアンモニアや脂肪酸などのニオイ物質も出てくるが、明らかに第三者にわかる特異的な口臭原因物質は3種類のイオウ化合物」と同助教授は解説する。

人体組織の中でも口の中は新陳代謝が速いうえ、約200種類の細菌が数億個もすみ着いている。従って、代謝で死滅した粘膜細胞などのたんぱく質成分が細菌で分解され、常時ニオイ物質は作られている。しかし普通、だ液やブラッシング、水を飲むことで口の中は洗浄され、第三者にわかるほどには出ない。

問題は歯周病である。歯肉(歯ぐき)や歯根膜、歯槽骨などの歯を支える組織が侵され、破壊されるのが歯周病。「壊れた組織や死滅した白血球、細菌などのたんぱく質成分が分解、イオウ化合物が生成される。普通の人に比べ明らかに多い」と角田助教授は言う。
口臭物質は「ガスクロマトグラフィー」という微量化学物質を測定する技術を利用してはかる。注射器状の採集器に口をつぐんだ状態で呼気5tを採り、分析器にかける。チャート上に即座にニオイ物質が図示される仕組みだ。口臭があっても、3物質すべてが検出されるわけではない。歯周病の治療が口臭をなくすことにもなるわけだが、同助教授は「客観的なデータを患者に示すことによって、治療効果が上がる」と言う。

第三者がにおいは感じないのに、「自分には口臭がある」と思い込むのが口臭神経症。話し相手が手を口に当てるなど、他人のちょっとしたしぐさで悩む。線路を隔てた駅ホームにいる人のしぐさを結びつけてしまう極端なケースもある。「におわない」と言っても納得しない。チャートを示しても「機械が壊れているのでは」と反論する人もいる。
同助教授は2つのタイプがあると指摘する。@潔癖性の人で、口臭があって他人に迷惑をかけていると思い込むA自己中心的性格の人で、会社などで人間関係がうまくいかないと、口臭があるからではと疑ってしまう。「心療内科的な方法もとるが、基本的には科学的データを示して納得してもらう」と角田助教授。

肝炎や糖尿病、耳鼻咽喉科疾患(ちくのう症)などが原因で口臭が出る場合もある。一般的には年をとるに従って口臭を伴いやすくなる。「老人性口臭」という。普通の成人は1日に1〜1.5リットルのだ液分泌があって、口の中を洗い流しているが、その分泌量が減る、歯肉が下がってブラッシングが行き届かない、などが原因だ。寝た切りのお年寄りにはこうした口臭のほか、飲んでいる薬のにおいや体臭もある。「口の中の細菌が一番増殖しやすいのは就寝時なので、寝る前のブラッシングが大事。また物を食べた後には励行を」(角田助教授)というのが、歯周病の人を含め口臭を抑えるのに効果的な歯みがき法である。