・口臭患者の中で多数を占める自臭症とは
・その謎に迫る

ほんだ歯科 院長 本田俊一氏に聞く

薬事日報  平成 12年 4月 19日 第9283号

 口臭。一言で言えば口の臭いだが、口臭で悩む人にとっては一言では片づけられない。日本でも臭いに過敏になり、清潔志向が歓迎される風潮がある。
 口臭で悩んでいる人の多くは過剰に反応している「自臭症」といわれる人々だ。
 「口臭で一番問題になることは、人とコミュニケーションがうまくとれないこと。本当に治療すべきは自臭症」と語るのは、口臭治療で実績を上げているほんだ歯科(大阪府東大阪市)院長の本田俊一氏。
 本田氏は開院以来、口臭を診つづけ、インターネット上でも口臭および歯科に対して一般の人のみならず、歯科医に対しても啓蒙活動を続けている。

 そこで本田氏に口臭の概要とその実際の治療についてお話をうかがった。

その謎に迫る

 近畿大学のすぐそばに一見見たところ何の変哲のない歯医者さんがある。しかし、この歯医者さん、全国から「口臭」に悩む患者らが詰めかけている。自臭症で悩む人が最終的にたどり着く歯科医院になっており、全患者の八割は自臭症だという。
 患者も全国に及び、関西のみならず関東および東北地方の患者が半数以上を占めている。最近、自臭症は増加の一途を辿っており、「どこの歯科医院もその治療には対応できていない。口臭外来をもつ大学病院ですら治療にまでは至っていないのが現状だ」と話す。
 
 本田氏は自臭症および口臭に対して誤った認識、治療が行われていると指摘する。
 歯科医や専門家が「歯石」や「舌苔」が口臭の原因としているが、それらが一つの原因となることは確かなようだ。だが、本田氏の経験から初期の歯周病では口臭は起こらないことから、「それらが本質的な原因ではないのでは」と疑問を投げかける。

 本田氏は口臭の原因を大きく分けて三つに集約して考えている。
 一つは糖尿病などと同じく「成人病」として分類される。その本体は歯周病。中でもとりわけ中等度以上の歯周病が原因になる。
 二つ目は人が「口呼吸」する点が大きく関与しているという。口腔学的に見て他のほ乳類とただ一つ異なる点。本田氏はここに目をつけた。歯を磨く習慣がない野生動物の口臭が気になることはまずない。「これは口呼吸が口腔内乾燥を引き起こすことが原因」と強調する。
 
 では、口腔内が乾燥するとどうなるか。乾燥するということは水分が不足する。つまり、唾液分泌が不足している状態。
 唾液というのは本来、自浄作用を持っておりそれが失われると口腔内を清潔に保とうとする自浄システム(恒常性の維持)が崩れてしまうというわけだ。この考えは獣医師の資格も持つ本田氏が動物学的な立場からこのような見解を示している。

 もう一つの原因、それはストレス。ストレスを受けない乳幼児、子どもでは口臭は皆無だ。そのわけは子どもの生活リズムが正しく、本能のまま生きているからだという。
 だが思春期を迎えころになると口臭を気にし出す人が出てくる。第2次性徴を迎え、心理的につまづき、「くよくよする」「ストレスに弱い」など人それぞれが持っている「個性」が口臭に影響を与える要因になるという。というのも、そのような「個性」が自律神経に瞬時に直接働き、自律神経の乱れ、唾液分泌低下につながっていくわけだ。

 これらの原因が複雑に絡み合って、自臭症という疾患が現れてくる。
 だが、このような自臭症の患者が口臭外来や医療機関に行っても口臭はでないという。
 「話を聞いてもらえる安堵感と期待感が一つになって診察中は心理的にはベストの状態」と本田氏は自臭症患者の心理をこう分析する。それが一歩外に出ると、口臭が出るのではないかという「緊張」とそれに伴い口をつぶるという「口腔内乾燥状態」を作りだしやすいと説明する。
 「緊張」は自律神経に作用し、誰もが生理的な口臭を引き起こすが、自臭症患者は緊張しやすく、緊張状態が持続するという。
 口臭が起きることで口をつぶり、緊張し、さらに口臭を招く。悪循環が引き起こされているシステムが出来上がっているというのだ。唾液分泌は、またその人ライフスタイルや食生活にも大きく関わっており、分泌不足はその乱れも要因と指摘する。さらに本田氏は「自臭症患者は自ら臭気を感じているのに、社会や治療サイドが容認しないため心理的影響を受け、歯科医が自閉症や社会不適応人間を作り出しているのではないか」とも訴える。

食生活やライフスタイルを改善
個性を見極めた治療


 それでは、ほんだ歯科が実際に取り組んでいる自臭症の治療を紹介しよう。
 
 ストレス社会や個性を受け入れた上で、本来ほ乳類として持ち合わせている機能を回復させれることが治療の基本で、口臭の起こらなかった状態に戻すこと。つまり、食生活やライフスタイルの改善を図るというものだ。
 
 そのため患者の食生活を把握するために、毎日どのような食事をしたのか患者自身に記録をつけてもらう。自臭症は「緊張時口臭の慢性的持続」が本体であることから、その緊張をどのようにコントロールするか、生活改善と並行してカウンセリングや精神的ケアを行っていく。
 また患者自身が口臭とつきあうための基礎知識を診察時に講義。
 患者自身が口臭、口腔内に関することにより詳しくなってもらうことも重要だという。患者自身を徹底的に知り尽くし、個性を見極め、治療をしていく。「病を診ずに人を診る」というわけだ。
 
 もちろん口腔内も診るが、自臭症で来院する患者は一般患者に比べ、ずっと口腔内はきれいだという。それは「ほんだ歯科」が自臭症患者にとってたどり着いた先の歯科医院であるため、それまでにも診察、指導を何度も受け、歯科的治療はやり尽くされているという。
 
 その一方で、尿など全体的なスクリーニングを実施し、内科的に問題点があれば内科や耳鼻科、精神科、婦人科等で診てもらうように他科に要請する。「他の歯科医院は、内科に行って来なさいと指示するだけ。うちは違う」と強調。口臭治療に関しては「ほんだ歯科」が主体を持ち、横との連携を図っている点が他の歯科医院とは大きく異なる。「内科的な治療が済めば、再び口臭治療に専念してもらいます」と本田氏。
 日本では口臭治療、とりわけ自臭症に対する治療法は確立されていないのが現状だ。とすると、本田氏はこれらの口臭の概念や治療法を独自で作り出していることになる。その治療法を患者に実際用い、成果を上げている。「ここでは自臭症は治ります」。

 そこで一つの疑問が浮かんでくる。なぜ、歯科医師は口臭治療に本腰を入れないのか。本田氏は日本の口臭治療の遅れを次のように指摘する。
 まず大学では「口臭」に関して教わらないという。もし大学で教わったとしても、歯周治療、歯科治療の専門家を目指す人がほとんどなので、口臭治療のエキスパートになろうとはしないのだ。
 口臭治療を行っても「時間がかかる」「コスト的に合わない」などの問題がある。他科とのネットワークおよび内科など他科領域も含め総合的知識が必要になる。
 「口を消化器という概念で扱うドクターがいない」と訴える。「採算は合わないが、誰かがやらなければならない。今では大部分が口臭治療になってしまった」と苦笑いする本田氏。

 ほんだ歯科ホームページも人気
独自に編み出した治療法を満載

 ほんだ歯科ではインターネットのホームページ(HP)も開設している。さらに独自の口臭専門HPの「Fresh Breath」も手掛ける。ほんだ歯科HPは口腔内、歯科的な知識の啓蒙を目的として2年前に作成した。

 歯科医の言っている正しいこと、間違っていることを本音で載せている。

 難しいホームページでは誰も読まないので、おもしろおかしく工夫を凝らす。

 これらHPはサーチエンジンの「ライコス」の推奨サイトにもなっている。

 一般人への知識提供はもちろんのことだが、歯科医への啓蒙も同時に行っている点が驚きだ。本田氏が口臭治療で知り得た知識、独自で編み出した治療法などを満載している。

 「全国の歯医者で口臭治療を行って欲しいから、あえて手の内を明かしています」と話す。これも口臭に悩む人を助けたいからだという。
 メール相談にも応じ、その内容はHP上の口臭相談のコーナーにも反映されており、膨大なデータベースとなっている。
 
 「歯医者に行かなくても、生活改善・食生活改善や緊張時の対処法で口臭は治ることをアピールしたい」と意欲的だ。