唾液分泌の仕組み


食物が口の中に入ると、咀嚼(そしゃく=かむこと)運動とともに、唾液の分泌が始まります。唾液の作用はいろいろあり、消化機能を助けたり、あるいは刺激のあるものが口の中に入ったときには、その分泌量が増えて、刺激を弱めたりします。中でも大切な作用は「絶えず口の中を流れて、歯や粘膜の汚物を洗い流し、口腔内を清潔に保つ」ということです。

唾液が作られるところは、唾液腺(だえきせん)と呼ばれます。耳下腺(じかせん)、顎下腺(がっかせん)、舌下腺(ぜっかせん)という大きな唾液腺の他にも、口腔粘膜のあちこちに小さな分泌腺が分布しています。

食事の際に、これらの唾液腺から唾液が分泌される仕組みは。
口の中に入った食物等から溶けだした化学物質によって、舌の粘膜が刺激を受けること、口腔内で一定の食物感覚を得ることによって、これらを知覚する神経が刺激され、それが脳へと伝達される結果、唾液が分泌されます。

この過程の中で、自律神経の働きが重要です。


唾液腺の種類によって、作られる唾液の性質が違いますが、作用する自律神経の働きかたによっても、分泌される唾液の性質が違います。すなわち、交感神経が刺激されると粘っこい唾液が、副交感神経が刺激されると、さらさらした唾液が多く出ます。

その他に、唾液の作用の注目すべき点は。
特別な刺激がなくても絶えず分泌される固有唾液と、食物による刺激・顎の運動・味覚などによって分泌される反射唾液というものがあるのです。

唾液分泌が少なくなる時


・生理的な原因によって唾液分泌が少なくなる場合

唾液を作り、分泌する唾液腺は、自律神経の影響を受けます。たとえば、緊張した時や、不安を感じた時、怒りを感じたとき等には交感神経が優位になっているため、唾液の分泌量は減少します。

また、なんらかの原因で脱水状態になったとき、体からの水分の喪失を防ぐために、唾液の分泌は減ります。年をとると、その他のあらゆる部分と同じように、唾液腺の分泌機能も衰えていくため、一般に老人では口腔内が乾燥しやすくなります。女性の場合は、閉経に伴い、ホルモン等の関係で口腔内乾燥が起こります。

耳鼻科の病気や内科の病気で薬を服用している場合、その薬の多くは唾液の分泌を抑制する作用を持っています。

・病的な原因によって唾液分泌が少なくなる場合

炎症や腫瘍を含む唾液腺の病気、唾液腺の機能に異常を引き起こす全身的な病気に罹ったとき、などは、唾液の分泌量が減少します。また、唾液腺の付近に、治療のための放射線照射を受けた場合には、唾液腺が萎縮を起こし、唾液分泌機能が衰えます。

唾液腺の病気、または唾液の分泌を減少させる病気を幾つか挙げてみます。

<慢性だ液腺炎>
唾液腺が、数ヶ月から数年かかって、痛みを感じないままに腫脹し、硬くなってくるものです。自覚症状がないために、なかなか気づかれません。

<シェーグレン症候群>
唾液腺だけではなく、目(乾性結膜炎)と、関節(慢性関節リウマチ)にも症状が出る、全身性疾患です。全身の、外分泌機能が障害されます。

<自律神経失調症>
自律神経の機能に障害を起こしたもので、その内容と程度によって、交換神経緊張症と、副交感神経緊張症とに分けられます。また、全機能が障害された状態を全自律神経失調症とよびます。

消化器系では、食欲不振や胃の不快感などとともに、唾液の分泌が減少することにより、口の中が乾く、という症状が起こりますが、障害を起こす神経によっては逆に分泌量が増えてしまうこともあります。また、便秘や下痢も起こります。

<甲状腺機能障害>
甲状腺の機能が乱れると、全身に様々な症状が発生します。そういう患者さんの場合、口の中が乾燥しやすくなります。口の中ばかりでなく、目や皮膚も乾燥します。

このような症状は、甲状腺機能亢進症の場合が多いのですが、口の中が乾燥するからといってうがい薬を使用する場合、ヨードが主成分のものは、甲状腺にヨードが蓄積してしまうので、非常に危険です。


解剖学的に見た唾液が出るしくみ
唾液分泌機能促進訓練法を、理解する為に

(ほんだ歯科での取り組み)
-この、項は、対象患者さんに学習していただいているものです-


生理的な唾液分泌の仕組みは、様々な参考書に載っていますが、意外にも、解剖学的、機能的な、唾液分泌の仕組みについての記述は少ないです。
通常、唾液分泌が唾液性疾患などの理由で、出ない人には、対症療法として「人工唾液」を用いますが、通常の唾液分泌機能に障害がない場合は、用いません。

それでは、口臭に最も関連する唾液分泌機能の改善をどうしたら、いいのでしょうか??
それが、私が考案し、治療に取り入れている唾液分泌機能促進訓練法です。
この方法を習得する為に、解剖学的な唾液分泌の仕組みを理解しておく必要があります。

舌解剖図
下を「ら」と発音するようにしてみてください。
下の裏側がよく見えます。
ちょうど、真中に、口腔底に1本の帯によって、つながっています。
この帯を舌小帯といわれています。
一見邪魔な帯ですね。これによって、舌は運動制限を受けます。
しばしばこの帯が大きすぎる場合、しゃべれなくなりますので、切る事もあります。
何のための帯でしょう?
実は、唾液分泌に密接に関係しています。食事や、会話で、舌が動くと、舌の動きに伴いこの帯は上下します。
この帯の付け根あたりを、じっくり見てください。
2つの小さな突起(舌下小丘)があります。これは、舌の両横にある舌下腺につながっています。
この舌下小丘に開いている穴から、大量の唾液がでる訳です。
実は、この一見なんの役にも立っていそうに無い舌小帯こそが、普段の唾液分泌に大きな役割を担っている事がわかります。
舌が、上下するたびに、ポンプのように唾液をくみ出しているのです。
本来は、自律神経によって、無意識行なっている行為を、自律的に行なったとしたら?
唾液を自分の意思コントロールできるとしたら・・・唾液不足がコントロールできるかもしれません。
これが、自律的唾液分泌機能促進訓練法です。この訓練法を効率よく行なう為に、この解剖学的知識は役に立ちます。