口臭の九割は歯周病・・・増えている自臭病  

においに対する気配りが求められるようになった。口臭を防ぐ商品の売り上げは相変わらず好調なようだ。エチケット面から歯周病予防という歯の健康に関心を持ってもらおうと取り組むグループも出てきた。一方、ほとんどにおわないのに口臭があると思い込む自臭症の患者が増えている。
「今朝電車の中でひどかったの。前にいたおじさんがね・・・においが気になっちゃったのよ」
「口臭だろ」
「自分の息もあんなにくさいことあるのかなって思わず考えちゃった・・・とにかく我慢できなかったわ」
東京都や特別区の保健所に勤める歯科医師や歯科衛生士、栄養土、環境衛生監視員のグループ「いい息研究会」が健康教育用に作製したテープに録音した高校生の会話だ。

教材は、都内や神奈川県内の理、美容師の講習会などで利用されている。「仕事上からも口臭に敏感にならざるを得ない人に、このテープと上映するスライドとで、においと歯の健康の問題が結びついていることや、食事・不規則な生活も関係していることに気づいてもらう」がグループの狙いだ。同時に、口臭のきっかけになる歯垢はうがいぐらいでは取れない、正しいブラッシングが必要と訴える。歯周病の予防と、また軽い場合は回復にもつながる。

口臭の背景には、病気がある場合、朝起きた時や空腹時だけといった生理的なもの、ニンニクなどを食べた後の一過性のものと原因が分かれる。病気は口だけに限らず、鼻やのど、消化器、呼吸器系などの疾患といろいろある。
日本歯科大学教授の鴨井公一さんは「正確に統計を取ったわけではないが、九割は口の中の病気で、大部分は歯周病だ」とみている。歯周病は痛みが伴わないことが多い。同大学病院では、ただ「口臭がする」とだけ訴えて来る歯周病患者が五人に一人くらいの割合でいるという。
鴨井さんによると、歯周病の症状が進むと、メチルメルカプタンというにおいを出す物質が多量に生まれる。湖や排水口で悪臭がするのも同様の悪臭物質が発生しているからだ。口臭は口の中の環境悪化とも言える。

ライオン広報部は、口臭予防を目的とした洗口液(うがい剤)や歯みがき剤の市場は六十五億円規模とみている。しかし、これらは「清涼感のあるにおいで口臭を隠すもの。くさいものにフタという考え方で、においのもとの物質を分解するものは研究中」(鴨井さん)。
大正製薬商品開発二部の高橋毅さんは「口中清涼剤もだ液で流されるので長くて半時間から一時間しか効果は続かない」と話す。

杉並区西保健所の歯科医師、矢沢正人さん(同会代表)は保健所の歯科衛生士らと四十歳から五十九歳までの五百三十二人に、口臭について聞いたことがある。「気にしている」人が約一五%いた。
矢沢さんは「この数字の判断は難しい」という。まず、人間はにおいにはすぐなれるため、口臭があっても自分では感じていない人がいる。さらに、自臭症も考えないといけない。
鴨井さんは「においがあるのに何とも思わない人は結構います。
豪快な性格の人に多いですね。そういう人こそ歯周病を疑ってほしいのですが、今増えているのは自臭症の人です」と話している。

                                                毎日新聞'92・11・30