「胃熱が発生源の口臭には清熱薬」

口臭を気にする人は意外に多い。実際はないのに、自分には口臭があると思い込んでいる場合もある。このような心理的なものは別にして、口臭の漢方治療を紹介する。
 気温が高くなると食べ物が腐りやすいのと同じように、脾胃(消化器系)の熱が口臭の発生に関与している場合が少なくない。なかでも胃熱は口臭の発生原因になりやすい。
 そのため口臭の漢方治療は、胃熱を取り除くことを第一に考えている。処方として中国では清胃散がよく用いられるが、日本では入手できないため、処方中の主薬である黄連を配合した黄連解毒湯(おうれんげどくとう)や白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)のような清熱薬(消炎・解熱作用のある薬)で代用する。

 歯周病や歯槽膿漏など、歯の病気も口臭の原因となる。これは歯科治療の対象となるものだが、歯茎に腫れや熱痛がある場合には、上記清熱薬の使用でも効果がある。中国漢方では「腎は骨をつかさどり、歯は骨の余り」とされるため、歯の質の弱い人や慢性の歯の病気に悩んでいる人には、腎を強化する六味地黄丸に、清熱作用がある知母(ちも)と黄柏(おうばく)を加味した瀉火補腎丸(しゃかほじんがん)を用いるとよい。

 ストレスもまた口臭の一因となる。ストレスがたまると唾液の分泌量が減って、細菌の繁殖が進み口臭が発生しやすい。この場合にはストレス症状を改善する加味逍遥散(かみしょうようさん)や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、温胆湯(うんたんとう)などを用いる。さらに、芳香性をもつ生薬を用いて口臭を抑える方法もある。カッ香を水やお湯で煎じたもので、口をすすぐだけでもかなりの消臭効果がある。
             
               袁 世華(中国・長春中医学院教授)讀賣新聞日曜版『漢方漫歩』1998/02/08