先端医療へのアプローチ
“口臭ノーイローゼ”は根気よく治療を
「自臭症」

最近、口臭外来の患者さんは、激増しています。しかも、歯周治療や、虫歯治療で改善される単純な他臭的口臭の訴えの患者ではなく、いくつかの「口臭外来」「内科」「耳鼻科」「精神科」を点々とたらい廻しにされてきた、いわゆる「自臭症」と呼ばれる患者さんです。

自分だけが感じる口臭で、口臭測定器や他人には感じない口臭で悩む患者さんを指します。
「自臭症」は精神的要因であるとして、どの科においても、取り組みは消極的で、担当医も手をこまねいているのが現実です。

「自臭症」患者さんは、おおむね、その事により対人的恐怖症、不登校や社会活動への不適応の状態に陥っていくため、事態は深刻です。

自臭症患者の多くは、実際に患者さんが口臭を感じています。しばしば、他臭に発展することがあります。このことが問題を複雑にしていると思います。

自臭症の解決は患者さんと医師の一体となった取り組みが必要です。



ひと口に口臭といっても、「他臭症」と「自臭症」がある。前者は確かに悪臭がして他人にもわかるだが、後者は自分だけにしかにおわない。歯科医をてこずらせるのは自臭症だ。

ニラ、ニンニクなどの臭いの強い物を食べた時の生理的な口臭は、歯を磨くなり、うがい、口臭防止剤などで簡単に消せる。また口や歯、胃など内臓に病気が原因の口臭は、その病気を治せば解決する。しかし自臭症の悩みは笑い事ではない。精神的なもので、他人に口臭を指摘されたりすると、コンプレックスとなり、人前で堂々と話す事が出来なくなったりする。

言葉で指摘されなくても、会話中に鼻を手で覆うなどの態度や動作で口臭を忌避するような素振りをされると、思いのほか深い心の傷となり、口臭ノーイローゼになる人がいる。

自臭症に詳しい東京医科歯科大学千葉病院の角田正健助教授によると、自臭症の治療は「口臭があると思いこんでいる心の重圧を取り除いてあげることですが、口で言うほど簡単なものでない」と言う。

こんな例がある。24才のサラリーマン。会社で上司に「お前は口がくさい」といわれてから仕事がうまくいかなくなった。だから、すぐに口臭を消す薬をもらいたいと訴えてきた。だが口臭分析器にかけても臭気成分は検出されない。実際に口臭のある人の分析結果と本人の結果を3回も比較説明してあげたが、納得しない。最後にはデーターを疑い出した。それでも薬を欲しがるので、偽薬を与えると症状は徐々に改善された。その後もカウセリングを続けていくうち、社内の人間関係についても話すようになり、口臭にこだわる自分を反省し立ち直った。

「この例は職場の人間関係のあつれきが原因の口臭ノーイローゼでした。自臭症の患者を診ると、ある程度は性格によります。物の考え方が自己中心的で自己主張ばかりが強い。たとえば仕事の調子が悪くなると、自己反省することもせず、その原因を周囲に求めようとする。ようは仕事がうまくいかない理由を口臭のせいにする。一種の自己逃避に走るようになる。だから、本人としては、口臭を否定されるのが一番怖いのです。」(角田正健助教授)

最近自臭症を訴える人が多くなっている。自臭症はいったん自分が口臭があると思いこむとエスカレートし、自殺するケースもある。「しかし、患者と医師が一体となって根気よく治療すれば必ず治ります」(角田正健助教授)
                             1999年12月07日 スポーツ報知